コラム

人はつながっている(第2回) ~物理学と健康の不思議な関係~



図. ジェームズ・リンドの肖像画(出典:Wikipedia)

 1753年、ジェームズ・リンド医師は、「壊血病について」という400ページにもわたる大論文を、壊血病によって多くの船員を失ったジョージ・アンソン提督に捧げました。論文によって、壊血病が一掃されることを願って。

しかし、ジェームズ・リンド医師の論文が発表されてわずか3年後、イギリスは7年戦争へと突入します。戦争が終結するまでに、戦火で命を落としたイギリス兵は1,512名だったのに対し、壊血病で亡くなった者は10万人にものぼったといいます。

英国海軍が軍船での壊血病予防のために、1日に約20ccのレモン果汁を支給することになったのは、ようやく1795年になってからのことでした。ジェームズ・リンド医師の発見から、実に48年も経ってからのことです。一方、その他のヨーロッパ諸国は、壊血病対策
はイギリスよりもさらに遅れ、その後の海上戦争において、イギリス海軍の後塵を拝することになります。
 
 さて、この壊血病の事例から、私たちは何を学ぶことができるでしょうか?私が思うのは、社会を変えうるアイデアがあっても、それを社会に浸透させる工夫をしなければ、ジェームズ・リンド医師のように宝の持ち腐れになってしまうということです。

 そこで次なる疑問は、今まで世の中に存在していなかったアイデアは、どのようなメカニズムで、世の中に広まっていくのでしょうか?アイデアの普及に関する最新の研究成果をみながら、考えていきます。