コラム
人はつながっている(第1回) ~物理学と健康の不思議な関係~
3.肥満を予防する、驚きの方法とは?
クリスタキス教授らの研究に刺激を受けたのは、意外にも物理学者たちでした。詳細についてはまた次回以降記しますが、端的に述べると、「感染症が社会の中でどのように広がるのか?感染を食い止めるためにはどうすればよいのか?」という研究で使われる分析手法は、実は医学研究者にはあまりなじみがないもので、むしろ物理学者たちこそが最も得意としてきた分析手法であったからです。
「もし、肥満が感染症であるのなら、その感染を食い止めるためには、どうすればよいのだろうか?」と考えたのは、物理学者であるダイビッド教授らのグループです。そして2009年1月に、コンピューターによるシュミレーションの結果、以下のような驚くべき研究結果を発表しました(参照:Bahr et al. (2009) Obesity doi:10.1038/oby.2008.615)。
「肥満の人をターゲットに対策をしても、社会として肥満を抑えることには、あまり意味がないかもしれない。さらには、友達と一緒にダイエットするのも、意味がないと思える。」
なぜ、すでに肥満の人をターゲットにしても、社会として肥満を抑えることにあまり意味がないのでしょうか?デイビッド教授らによると、「肥満の人は、周りを肥満な人で囲まれている。そのため、どれだけ個人としてやせるための努力を重ねても、周りの影響には打ち勝つことは難しい」と、理由を挙げています。
一方、社会として肥満の拡大を防ぎたいのであれば、既に肥満の人ではなく、「今は標準体重の人が太らないようにすべき」と述べています。その際に、標準体重であればだれでもいいわけではなく、「多くの知り合いがいるような標準体重の人」をターゲットにすることが望ましいと述べています。多くの知り合いがいる人は、それだけ周りへの影響力(感染力)も強いため、そのような人に注目することが、これからの肥満対策の焦点になるかもしれません。