コラム

人はつながっている(第3回) ~物理学と健康の不思議な関係~


1.地域を動かす

大きな変化を起こすには、大きな手段を用いなければならない、と考えがちです。たとえば、日本を変えるには政治が変わらないといけない、地域を変えるには景気がよくならないといけない、街を動かすには多くのお金が必要だ、といった具合に。

また一方で、「小さな変化をコツコツと積み重ねていくことが、一番大事なんだ。大きく変わったものは、壊れるのも早い。本物は、ゆっくりと作られる」という考え方もあります。

しかし、実際に社会で起きた「大きな変化」をみていくと

「大きく変えるか vs 小さく変えるか」

という対立構造ではないことに気が付かされます。

例えば、肥満大国アメリカを例にとると、アメリカ人がある日突然太り始めたわけではなく、また長期間かけてじわじわと太り始めたわけでもありません。「ティッピングポイント」と呼ばれるある一点を超えた時に、急速に肥満が広がっていったと報告されています。もう少し分かりやすくいうと、社会の中である一定の割合の肥満者が存在するようになったその「瞬間」に、爆発的に肥満者が増えたということです。

これは、水が氷になる現象とよく似ています。水は徐々に氷になるのではなく、ある一点を超えると、急激に氷になることが知られています(専門的には、“相転移“と呼ばれます)。

すなわち、地域を動かすためには、地域の全住民を一度に動かすのではなく、あるいは少人数の集団に対して散発的に働きかけるのでもなく、大きな変化が起こりやすい「ティッピングポイント」を超えることが重要だと考えられます。

以下、具体的にみていきたいと思います。