コラム

人はつながっている(第3回) ~物理学と健康の不思議な関係~


4.地域を動かす人をどうやって見極めるのか?

ここで、これまでのポイントを整理します。まず、冒頭にも書いたように

「一人の行動を変えることと、地域全体を動かすことは、全くメカニズムが異なる」

ことです。

一人の人間の行動を変えようと思ったら、1)コミュニケーションなどによって意識を変える、2)行動のための障害を下げる(スポーツジムの入会金を無料にする、など)、3)行動のきっかけを提供する(健康教室のお知らせを送る、など)、などのアプローチが有効になります。

しかし、地域全体を動かそうと思うなら、ティッピングポイントを超えることが重要になります。前回の連載では、「地域の全住民の10%」が動くと、劇的に地域が動いていく可能性があることをみていきました。

また今回これまでみてきたように、ティッピングポイントまで一気に到達するためには、「地域の中の誰を動かすのか」ということが、もっとも重要なポイントになります。

「10%」といえど、決して少なくない人数です。3万人の街なら3千人。30万人の街なら3万人にもなります。しかし、現実的にアプローチできる数は、もっともっと少ないでしょう。多くとも、一年に数百人が限度ではないでしょうか?

そこで、限られた人員やエネルギーを効率的に活用するためには、「地域の中の誰を動かすのか」ということがポイントになります。地域住民の人間関係がある程度分かっているのならば、なるべくつながりの中心に近い人たちを対象にプログラムを提供することが、地域への波及効果が高い、効率的な方法となります。

一方、地域住民の人間関係が分からない場合もあります。その場合は、1)まずくじ引きのようなものでランダムに住民を選び、2)選ばれた住民に友達を紹介してもらい、その人たちを対象にプログラムを提供することが有効といわれております。ランダムに選ばれた住民の友達は、つながりの中心に近い人たちだと考えられるからです。

このように、地域のつながりを考えて、人間関係の中心に位置する人たちにアプローチする方法が、21世紀のポピュレーションアプローチとして定着する日は、意外に近いかも知れません。