コラム

人はつながっている(第3回) ~物理学と健康の不思議な関係~


2.観客のウェーブは、なぜ起こるのか?

スポーツイベントで見られる観客のウェーブ。座っていた観客が、次々に手を挙げて立ちあがることで、スタジアムの中をウェーブがかけめぐるというものです。

この現象が初めて世界の注目を浴びたのは、1986年にメキシコで開催されたサッカーのワールドカップでのことでした。マラドーナが大活躍したことでも知られるこの大会は、物理学者の研究対象ともなりました。


図1.サッカースタジアムで起こるウェーブ
(出典:http://angel.elte.hu/wave/download/article/MexWave.pdf)

ある物理学者のチームが研究したところ、ウェーブは時計回りに「秒速12メートル(およそ20席分)」で伝わることが分かりました。また、ウェーブの長さは平均9メートル(およそ15席分)であったそうです。

ワールドカップともなると、スタジアムには5万人を超す観客がいます。さて、これだけ大勢の人を動かすには、最初にどれだけの人数に働きかければいいのでしょうか?

実際に起こったウェーブを計算してみると、なんとたったの30~40人(全体の0.07%程度)が最初に同時に立ちあがるだけで、スタジアム中にウェーブが起こることわかりました。

もし最初に20人の人しか立ちあがらないとすれば、スタジアムでウェーブが起こる可能性は限りなく低くなります。つまり、最初にウェーブを起こすために立ちあがる人の人数が、30~40人を超えるかどうかが、ティッピングポイントと考えられます。